新版 コミュニケーション・スタディーズ (単行本)
人と人とが結びつくこと、関わること、関わらないこと。社会の基礎にあるコミュニケーションについて、ゼロから考えなおしてみよう。28の講義で何気ない日常の仕組みを解きあかす、究極の入門書。社会学の基礎も学べるロングセラーの改訂版。
【「序」から抜粋】
「コミュニケーション」は英語です。しかし、なぜ日本語に翻訳されずに、原語のままで使われてきたのでしょうか。それは何より、ピタッと適合する日本語がなかったからで、その意味では、「コミュニケーション」には、伝統的に日本人がしてきたのとは異なるやりとりや人間関係の仕方があるということになります。そのことを「コミュニケーション」ということばを点検して、探しだしてみましょう。
「コミュニケーション」(communication)はcom(共に)を意味する接頭辞とmunicate(有する)の結合したことばです。「共有」するために「伝え」たり、「かかわる」行為が「コミュニケーション」の意味になりましたが、「共有」した状態については「コミュニティ」(community)ということばがつかわれます。ですから、「コミュニケーション」について考えようと思えば、「コミュニティ」について考える必要が出てきます。
(中略)
comという接頭辞がつくことばは他にもたくさんあります。たとえば、「会社」(com-pany)はパンを一緒に食べることが原義で、そこから一緒に働く場になりましたし、「戦争」(com-bat)は共に戦うこと、「競争する」(com-pete)は共に求めること、「比較する」(com-pare)は共に置くこと、そして「同情」(com-passion)は共に思うことが原義です。
どのことばも「コミュニケーション」に関係することばだと言ったら、意外に思うかもしれません。「戦争」は「コミュニケーション」が失敗に終わったためにおこるものだと考えるのが普通だからです。しかし、理解しあったり、仲良くしたりすることだけが「コミュニケーション」ではありません。「共に」何かをすることを意味するcomがふくまれることばには、それが何であれ、「コミュニケーション」の要素があると考えた方が、「コミュニケーション」をより深く、そして広く理解することができるでしょう。
競争したり喧嘩をしたりするのは間違いなく「コミュニケーション」そのものです。そうすると、そうならないように仲良くすることとのあいだには、どんな違いがあるのでしょうか。あるいは、「遊び」として競いあうことは「マジ」で競うこととどう違うのでしょうか。私たちには表面上仲良く、和やかにつきあう関係を持続させながら、同時に、そこに競争心や優劣の感情を自覚したり、不信感や嫌悪感を持つことがあります。「ホンネ」と「タテマエ」の違いとしてよく話題になることです。喜怒哀楽といった感情は、ときに応じて自然発生的に自分のなかに湧きあがるものです。しかし、人間関係においては、それをそのまま表出することを控える場合が少なくありません。抑えることが必要な場合もあれば、ないのにわざわざあるかのように見せかけなければ、と思うこともあるでしょう。
「コミュニケーション」を微妙で複雑でむずかしいことだと感じさせる理由がここにあります。「コミュニケーション」を理解するのは簡単なことではないと言えるかもしれません。普段何気なくしていることを、その無意識におこなう部分にまで入りこんで見つめなおしたり、仕組みや構造を解きあかすためには、それなりの努力と好奇心が必要だからです。
Part1:コミュニケーションを考えるための基礎
1. 結合と分離
2. 対面、傍観、覗き
3. アイデンティティ
4. 自己と他者
5. 行為と演技
6. 関係と距離
7. 嘘と秘密
補 論
Part2:感情とコミュニケーション
8. 顔とからだ
9. 羨望と嫉妬
10. 楽しみと退屈
11. 孤 独
12. 親密性の絆
13. 病と死
14. 笑いと泣き
補 論
Part3:文化とコミュニケーション
15. 日本人の人間関係
16. コミュニティ
17. 群集、公衆、大衆
18. 場と集まり
19. 都会と田舎
20. 仕事と生活
21. 異文化コミュニケーション
補 論
Part4:メディアとコミュニケーション
22. メディア
23. 話すことと書くこと
24. ネット社会
25. スマホとネット
26. 音楽と場
27. 消費とコミュニケーション
28. ステレオタイプ
補 論
結 び
あとがき
人名索引
事項索引
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