追悼 ミハイ・チクセントミハイ氏に捧ぐ

2021年10月20日ミハイ・チクセントミハイ氏が逝去されました。

人が幸せを感じるメカニズムを明らかにしてフロー概念を提唱した代表作『フロー体験 喜びの現象学』の邦訳を弊社が刊行したのは1996年。我を忘れて没頭する状態〈フロー〉という概念は、氏の専門である心理学のみならず、社会学や経営学など幅広い分野に大きな衝撃を与えました。ポジティブ心理学の聖典でもあるこの本は、四半世紀にわたって多くの読者に愛され、現時点で31刷まで版を重ねています。

人が創造的な発見や発明をおこなうメカニズムを解明したのが、もうひとつの代表作『クリエイティヴィティ:フロー体験と創造性の心理学』です。人生のライフサイクル(幼少期、育てられ方、パートナーとの関係、老化)が発見の瞬間とどう結びつくのか。氏はノーベル賞級の天才91人の語りを分析することによって浮き彫りにしています。

フロー概念と創造性研究を核にして、氏は次々と研究を展開しました。弊社でも以下の本を刊行しています。フロー概念の入門書『フロー体験入門:楽しみと創造の心理学』、スポーツにおけるフローを分析した『スポーツを楽しむ:フロー理論からのアプローチ』、SDGsやESGを先取りし企業の社会的責任の重要性を説いた『グッドワークとフロー体験:最高の仕事で社会に貢献する方法』、トップレベルの経営者たちのフローを分析した『フロー体験とグッドビジネス:仕事と生きがい』。

教養あふれる文才豊かな書き手であるうえに、氏が開発した研究手法(Experience Sampling Method)がふだんの暮らしの経験にもとづくものであるため、著作はいずれも読み物として親しみやすいものになっています。また、心の闇ではなく、心のポジティブな面(幸せやクリエイティヴィティ)に注目しているので、読んでいて明るい気持ちになります。

晩年、氏は次のように語りました。「私の仕事は、フローが良いことに使われる確率を高めることです。そうすれば、人びとは、たんにお金や報酬を得るためではなく、自分の人生を生きるためにものごとをおこなうようになります」。

これからも、氏の想いが広く伝えられていくことを心から願っております。

ご生前のご功績を偲び、謹んで哀悼の意を表します。

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